2026.10.21
コラム

HACCPの「盲点」?——ショーケースのハニカムは、5年見直しで制度管理の射程に入るか

HACCP(食品安全を管理するための国際的な手法)が日本で完全施行されて4年が経つ。その節目を前に、国は正式な制度評価・見直し議論を開始した。食品小売業向けHACCP手引書には、ショーケース冷却設備のハニカム(蜂の巣状のフィルター部材)について一般衛生管理の項目に記載がある。ただし、その内容はまだ十分ではない。そのため多くの食品スーパーの現場では、ハニカムがHACCP文書のどこに位置づけられるのか、いまも曖昧なままである。それでも、ショーケースのハニカムを「衛生管理記録の対象」としてどう扱うかは定まっていない。制度の結論を待つより先に、自社の衛生管理文書に「設備衛生」の欄を作ることが、今できる現実的な一手である。

HACCP義務化から5年——国が今、何を問い直しているか

2021年6月、食品衛生法の改正によりHACCPの義務化が完全施行された。それから約4年が経過した2026年7月22日、厚生科学審議会食品衛生監視部会(第13回)において、「平成30年食品衛生法改正の施行後5年を目途とした検討のとりまとめ(案)」が正式な議題となった。消費者庁食品衛生基準審査課も関係省庁として参加しており、省庁横断での制度評価が動いていることが確認できる。

制度の見直し議論が始まっているという事実は、食品事業者にとって一つの信号として読むべきだろう。これは「何かが変わる」という予告ではなく、「今の運用が制度的に問い直される局面が来た」という認識の問題である。とりわけ、制度対応を「義務化時点で完了した」と捉えている事業者にとっては、現在の運用内容を改めて棚卸しする契機になりうる。

「食品に直接触れない設備」はHACCP手引書のどこに書かれているか

HACCPの制度設計において、一般衛生管理には設備・器具の清潔保持が含まれる。ショーケース冷却設備のハニカムフィルターについては、食品小売業向けHACCP手引書(厚生労働省公表)の一般衛生管理の項目に記載されている。ただし、その記載内容はまだ十分とはいえない。

出典:スーパーマーケットにおけるHACCP の考え方を取り入れた衛生管理のための手引書 一般社団法人全国スーパーマーケット協会

ハニカムは食品に直接触れない。しかし冷却された空気を食品売場に送り込む経路上に位置する設備部材であり、そこに汚れや微生物が堆積していれば、冷気を介して食品環境に影響しうる。この物理的な位置づけを考えると、「直接触れないから管理対象外」という整理が制度的に正確かどうかは、一つの論点になりえる。

手引書に記載はあっても、その内容が十分でないことは、「管理しなくてよい」を意味しない。むしろ、記載が一歩目にとどまっている状態として読む視点が必要である。読者が手引書を読んでも現場で何をすればよいか判断しきれないのは、読み落としではなく、その記載の不十分さを正確に感じ取っているからかもしれない。

制度の曖昧さの先にある、現場の実態把握

制度上の位置づけが曖昧なまま、実態をどう把握するか。

innobeetionsで行ったATP(食品残渣や微生物の有機物を検出する指標)ふき取り検査では、ハニカムが公衆トイレの便座や床、集合住宅のゴミコンテナ、排水溝と同レベルの数値であることが確認できている。

制度の義務が曖昧であっても、現場の状態を測定し、記録として残すことが、管理の出発点になる。

「省エネ」と「衛生管理」は別系統の根拠である

ハニカムの清掃・管理を促す根拠は、現時点で二つの軸がある。一つは「省エネ」であり、もう一つは「食品衛生管理」である。この二つは制度的に別系統の根拠であることを整理しておく必要がある。

省エネの観点からのハニカム定期清掃は、国、メーカ共に推奨している。

平成26年度経済産業省委託事業で、JARAC(一般社団法人 日本冷凍空調設備工業連合会 / 日設連)から2014年10月10日に発行された「業務用冷凍空調機器ユーザーによる簡易点検の手引き」では、
ハニカムは、ショーケース内の冷気を整流し、エアカーテンを作る働きをします。ハニカムに綿ぼこりなどで目詰まりますと、冷気が流れず、冷えなくなり、その分、電気の使用量も増加します。
また、ショーケースの天井に水滴がたまりやすくなり、商品に影響を及ぼす可能性がありますので、こまめに清掃をしましょう。
と記載されています。

出典:飲食料品小売業における省エネルギー実施要領 農林水産省

出典:飲食料品小売業における省エネルギー実施要領 農林水産省

出典:大阪府ホームページ

大阪府でも、事業者にハニカムの定期的な清掃を啓蒙しています。

一方、食品衛生法のHACCP管理体制が要求する「設備の清潔保持」は、食品安全という別の制度根拠に基づいている。

省エネ根拠があるから衛生管理義務が自動的に生じる、とは言えない。逆に、衛生管理文書にハニカムを記載することが、省エネ効果の証拠になるわけでもない。両方に根拠があることは確かだが、それぞれの根拠を混同して使用すると、どちらの制度文脈においても主張が弱くなる。

今次の食品衛生法5年見直しは、衛生管理の根拠軸が「省エネ推奨」ではなく「制度的義務」として明示される可能性を示す動きである。現段階では接続仮説の域を出ないが、その可能性を意識した記録の設計は、今からでも遅くないのではないか。

見直しが確定する前にできること——記録に「設備衛生」の欄を作る

出典:高槻市ホームページ

食品衛生法の「施行後5年見直し(2026年7月とりまとめ)」の議論において、冷蔵ショーケースの「吹き出し口(ハニカム等)の清掃」に特化した激しい対立や、法改正レベルでの単独の争点(法的な罰則化など)としての記録はない。しかし、「HACCP手引書の現場運用と実効性の強化」という大きな議論の枠組みにおいて、ハニカムの清掃は重要な実務テーマとして具体的に取り上げられ、大阪府を始め、地方自治体や行政、業界団体の間で議論・指導が重ねられている。

出典:尼崎市ホームページ

しかし、制度の結論を待ってから動くより、先に動くほうが選択肢は多い。

HACCPが本来求めているのは「記録に基づく衛生管理の可視化」である。これはハニカムに限らず、すべての設備管理に通じる制度的方向性だ。ATPふき取り検査によるRLU値の測定は、定期的な測定記録として残すことができ、この方向性と整合する。「検査した・記録した・対応した」という管理の軌跡を文書化しておくことは、今次見直しの行方にかかわらず、衛生管理の実態として評価される根拠になりうる。

手引書にすでに記載がある以上、それを自社の管理計画に反映するところから始められる。ただし記載内容は十分ではないため、現場の実態に合わせた項目の補強は、事業者側で進める余地がある。まず自社のHACCP管理計画を開き、「冷却設備の定期確認」という欄があるかどうかを確認するところから始めるとよいんではないだろうか。なければ、今日それを作ることが、制度対応の先手になる。見直しが確定した後では、「対応済み」の記録として示せるものが何もない状態で、急いで整備することになりかねない。
制度の議論が追いつくまで待つのではなく、実態の把握と記録の積み重ねを、今この時点から始めることをお勧めしたい。


私たちInnoBEEtionsは、ショーケースのハニカムという「見えない場所」の実態を第三者データと現場観察をもとに可視化し、衛生と省エネの両立につながる選択肢を現場に届けることを続けています。
ハニカムの清掃から、ハニカムを清潔に保つ保守まで、豊富なノウハウを有しています。
ハニカムのことをもっと知りたい、対策をしたい、という方は、お気軽にお問い合わせください。